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【レストラン リューズ】和包丁の技術で素材のパフォーマンスを高める、日本フレンチ界の侍シェフ

【レストラン リューズ】和包丁の技術で素材のパフォーマンスを高める、日本フレンチ界の侍シェフ
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「日本の食文化を世界に発信していく」。そんなポケットコンシェルジュのビジョンから始まったインタビュー特集です。日本で活躍する一流レストランのシェフを取材し、レストランに対する思いや、料理人としての考え方などを紹介していきます。

第九回

『レストラン リューズ』飯塚隆太

日本の食材を生かしたナチュラルなフランス料理で、国内外のゲストから人気を集める『レストラン リューズ(Restaurant Ryuzu)』。シェフの飯塚隆太氏は、和包丁を使って食材のおいしさを引き出すことで、日本ならではのフランス料理を表現し、ミシュランでは二つ星に輝いている。今回は、飯塚シェフの多岐に渡る料理人人生やフランス料理に対する考え方を語っていただいた。

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Pick up topics
1. 本場フランスのレストランで得た、未来の糧となる味の英知
2. 運命的に出逢った和包丁を手にし、新たな価値を創造する
3. 日本料理の技術で発揮する、『レストラン リューズ』の真骨頂

本場フランスのレストランで得た、未来の糧となる味の英知

――― 飯塚シェフが料理人を目指されたきっかけは何でしょうか?

小学校3~4年生ぐらいから、お菓子を作ることに興味があって、家で粉を捏ねてクッキーを作ったり、火を使えるようになってからはチャーハンを作ったりしていたんですね。僕の実家は新潟の十日町で呉服屋をやっていて、両親は仕事が忙しく僕たちのご飯を作っている暇がありませんでした。そんな家庭に育ったので、自分で料理を作ることがあったわけですが、料理を作るのは全然苦にならず、むしろ面白いなと思っていました。

そして時が流れ、転機が訪れたのは高校1年の夏休みでした。親戚の家に行ったとき、その地域で流行っていたケーキ屋さんのご主人に会う機会があって、「男は手に職を付けた方がいいぞ。何かやりたいことはないのか」と聞かれたんです。そのときにふと「そういえば料理を作るのが好きだな」と思ったことがきっかけとなり、高校卒業後は料理の専門学校に行こう、と決めました。それから卒業するまでの3年間は、地元で人気の洋食屋さんでアルバイトをして、卒業後は大阪にある辻学園日本調理技術専門学校に入学しました。

――― 専門学校に通う中で、何が一番印象的でしたか?

実際にフランスに行ったことですね。三つ星レストランを3店舗食べてまわったんです。新潟の田舎から出てきて、本格的なフランス料理を食べて、おいしいなと思えるものに出会いました。特に印象的だったのが、鴨料理が有名な『トゥールダルジャン』で食べたフォアグラです。いままで食べたものの中で最高においしいなと思えるぐらい、そのおいしさに感動しました。僕の味覚が若かったこともあるかもしれませんが、いま自分自身で良いと思うフォアグラを仕入れて調理していても、なかなかそれを越えるものには出会えていません。

――― 専門学校卒業後の就職先は街場のレストランではなく、なぜホテルで働かれたのですか?

当時はホテル全盛期で、「ムッシュ村上」と呼ばれていた村上信夫さんが現役で働かれていた時代でした。幼い頃からよくテレビで見ていたこともあり、昔から憧れていたんです。もちろん第一希望は『帝国ホテル』でしたが、残念ながら落ちてしまうんですね。そこから最初の就職先として決まったのが、ディズニーランドの裏にある『第一ホテル東京ベイ』(現在の『ホテルオークラ東京ベイ』)の洋食部門で、ここでは3年半働きました。

――― 初めから洋食を希望されていたのですか?

そうですね。これも僕の家庭に関係のある話なんですが、実は母親が牛肉や乳製品が一切ダメだったんです。そのため家庭で出てくる食事は和食がほとんどでした。ただそれとは対照的に、叔母が洋食を作ってくれていたんです。コーンポタージュ、マカロニグラタン、煮込みハンバーグなどですね。叔母はそういう料理を作ってうちに持って来てくれたり、叔母の家に遊びに行ったときに食べさせてくれたりと、僕の家にはない家庭料理のバリエーションに強い憧れを抱かせてくれました。ですから、アルバイト先も就職先も洋食しか考えていませんでした。

――― フランスで、2ヶ月間研修もされているんですね

そうですね。1ヶ月目は先輩が以前働いていたレストランでただ働きをして、そのあとにフランス全土を巡る、1ヶ月食べ歩きの旅に出ました。数ヶ月も前からスケジュールを立てて予約していた、二つ星と三つ星のレストランを毎日転々とです。2ヶ月目なんて、27軒連続でほぼ毎日食べ歩いていました。

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運命的に出逢った和包丁を手にし、新たな価値を創造する

――― フランス料理のシェフとしては珍しく、和包丁を使っていらっしゃるそうですが、和包丁を使い始めたきっかけは何でしょうか?

僕は昔から包丁の切れ味に対して興味があって、和包丁の魅力に引き付けられたのは『カフェ・フランセ』でスーシェフとして勤務していたころに行われた、ジョエル・ロブション氏と『青柳』の小山裕久氏のコラボディナー「20世紀の晩餐会」がきっかけです。3日間のイベントで、『青柳』さんチームに1階のキッチンを貸し出すことになり、僕がアテンドに入りました。当時のメンバーの中には、『日本料理 龍吟』の山本征治さんや『かんだ』の神田裕行さんもいらっしゃいました。

そして最終日に、お互いのチームで作った料理を交換し合うことになり、『青柳』チームは鳴門鯛とアオリイカのお造りを作ってくださったんです。僕は、イカに関してはそれまでおいしいものを食べてきたつもりでしたが、その包丁を蛇腹に入れたアオリイカを口の中に入れた瞬間、はらっとほどけて、甘みが広がって、それまで味わったことのないおいしさに衝撃を受けました。フランス料理って、火入れや味つけなどの手を加えることが調理になっていると思うんですね。それに対して日本料理では、包丁技術だけでそれが“調理”になっているんです。いままでは「切れ味の良い洋包丁であれば、和包丁との差異はない」と思っていました。もちろん素材にこだわることは大前提なんですが、その先に片刃の和包丁があるからこそ、素材自体を別のものに変えることができるんだということに衝撃を受けたんです。当時はフランス料理の調理技術で料理を作ってはいましたが、日本料理の調理技術も知っておかなければダメなんだなと、そのとき思い知らされました。

――― 和包丁はいつごろから使い始められたのでしょうか?

『カフェ フランセ』のあと、小山さんが手掛ける晴海の料理学校で、フランス料理の主任講師を2年半ほどやっていたのですが、小山さんの店『バサラ』が同じ施設内にあったので、たまに手伝いをしたり、日本料理の補佐をしたりしていたんですね。そこで日本料理の職人たちの技術を目の当たりにして、和包丁の使い方を覚えるようになりました。

――― 『レストラン リューズ』では、どのような場合に和包丁を使っていますか?

和包丁は、前提としてちゃんとした切り方を知っていることが重要になりますが、和包丁を使うことによって、さらに食材のパフォーマンスが高まるものに対して使っています。例えば、活〆にして身が活かっている魚は、普通の包丁だと切れないんです。やっぱり鋭い柳刃で切るから包丁が入っていくわけであって、そういうときは和包丁でないと最大限にその素材を生かすことができないと思います。あとは、この食材には必ず和包丁を使うというのを決めていて、それこそ僕のある意味人生を変えたアオリイカですとか、ジューシーな肉をシャープに切りたいときに使っています。

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日本料理の技術で発揮する、『レストラン リューズ』の真骨頂

――― 『レストラン リューズ』の店づくりについて教えてください。

店を出すにあたってイメージしていたのは、素材感を出してクラシックな中にも新しさを出すことです。料理に関しては「上質な素材を生かしたシンプルでピュアな料理」がコンセプト。クラシックなフランス料理をベースに、いまの時代にあった軽くて食べやすい料理を目指しています。また、店舗デザインでも“素材”にこだわりました。僕の実家が古民家再生の家で、厚板の欅の床や、漆塗りの欅の大黒柱がある家だったこともあり、『レストラン リューズ』でも木をふんだんに使っています。そして、内装では新素材のブラックステンレスやブラックガラス、ゴールドステンレスなどを使い、一方で歴史を感じさせる大理石、最上級のベルベットなどを組み合わせることで、落ち着きがありながらもモダンでシックなデザインに仕上げました。

――― いまの時代の料理とは何でしょうか?

僕が考えているのは、油脂に頼りすぎず、ナチュラルで素材感を味わえる料理です。古典的なフランス料理ではバターやクリームを多く使いますが、これをできるだけ減らすことで、軽く、より素材のおいしさが楽しめる料理に仕上がります。もちろん素材自体も、しっかりと旨味がある質のよいものを使わなければ、おいしさは伝わりませんが。また、素材感という意味では、例えば高級なアワビを切り刻んで、細かくなって、どれがアワビか分からないような料理ではなく、「アワビを食べたぞ」と実感が持てる料理を作りたいなと思っています。

あとは、油脂に頼りすぎないけれども、油脂を上手く使う工夫も必要だと思います。例えば、日本料理って、シンプルに煮たり、焼いたりするだけでもおいしい料理ができると思うんですね。これは、醤油やみりんなどプラスアルファの旨味が加えられる調味料を使えるからだと僕は考えています。でもフランス料理にはそれがない。ただ、それがない代わりに油脂というものがある。それをどう有効に使うかが重要なのです。オリーブオイルなのかバターなのか、バターとオリーブオイルの融合なのか、はたまた違う油脂と合わせるのか。やっぱり日本料理との違いは圧倒的に油脂ですよね。そして違う意味で、油脂って旨味じゃないですか。だから素材が同じでも日本料理とはアプローチの仕方が違いますし、日本料理には出せない旨味を表現できるので、別物のおいしさを出せると思います。そんな感じで自分のスタイルというものが築ければいいのかなと。

――― 素材を生かすための考え方を教えてください。

まず、フランス料理は足し算だと思うんですね。素材の組み合わせや調味料を加えて、ボリューム感を出したり厚みを出したりして、どうやっておいしくするのかを考える。だけど僕はそうではなくて、日本料理的な考えなんです。素材にフォーカスして、その素材の味をいかに最大限引き出すかどうか。何か足りなかったら足すし、足す必要がないなら足しません。ここに程よく油脂を加えることで、フランス料理に仕上げています。

 あと、店では白醤油も使えば、昆布も使っています。クラシックなフランス料理だとそういうものを使うのは御法度みたいになっていると思いますが、昆布は、野菜のおいしさを引き出すためにはすごく重宝します。昆布を水につけて炊いて、昆布水をつくって、そこに塩を入れて昆布塩水をつくります。一般的には、茹でた野菜などは青みを出すために、一度氷水に入れることがあるのですが、それだと味が全部抜けちゃうし、香りも飛んでしまいます。そこで、茹でた野菜を昆布塩水に入れることで、旨味が入り、色みもでてくるんです。これをやるようになってから「野菜がおいしいね!」と、お客様に言われるようになりました。それまでは自分の中で、フランス料理ならこれはやってはいけないという勝手な制限をつくっていたんですが、そのままでは料理の幅も広がらなかったと思います。現在の『レストラン リューズ』はフランス料理のカテゴリーですけど、今後はカテゴライズされずに「リューズの料理だよね」と思ってもらえるようになれば嬉しいです。

――― コースでは全体的に日本の食材を多く使用されている印象がありますが、中でもスペシャリテの「椎茸のタルト」には定評がありますね。

そうですね。8~9割は日本の食材を使っています。「椎茸のタルト」は、『ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション』でシェフをしていたときに生み出したオリジナルの料理ですが、『レストラン リューズ』にいらっしゃるお客様からのリクエストが多かったので、いまでは通年お出ししています。この料理は、フランスで食べ歩きをしたときに『ミッシェルブラス』で食べたアミューズのセップドタルトがすごくおいしくて、それを僕なりにアレンジしたものです。もちろん日本にもフランス産のセップ茸は入ってくるんですけど、値段は高いですし、品質が安定しないわけですよ。だったら、日本には安定して仕入れられる椎茸というすばらしいキノコがあるじゃないかと考えるようになるんです。いま使っている椎茸は、僕の地元の隣の魚沼で採れる八色(やいろ)椎茸です。肉厚で、焼いても身が縮みにくいのが特徴で、『レストラン リューズ』らしさを表現した一品だと思います。

RestaurantRyuzu椎茸のタルト

「新潟産 八色椎茸をタルト仕立てに ラルドの薄いベールで覆って」

――― 最後に今後の展望をお聞かせください。

まずは『レストラン リューズ』をもっと充実させていきたいですね。決して手頃な価格帯のレストランではないので、スタッフを育てて、お客様にも理解していただいた上で、うちの料理に対してお客様に心地よく対価をお支払いただける環境をつくりたいと思います。そして、スタッフの給料も上がって、労働条件も良くなって、皆が幸せだなって思える職場をつくれたら、それに越したことはないですね。

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〈シェフからの一言〉
幼少期から憧れ続けた洋食の世界で、いまでは自分のレストランをオープンすることができ、多くのお客様にご来店いただいていることに、日々感謝しております。当店では、いまの時期では鱧や鮎、冬には松葉ガニも使いますので、国内のお客様だけでなく海外のお客様にも、日本の食材を生かしたナチュラルな料理を楽しんでいただけたら幸いです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

【聞き手・文】白石直久
【撮影】キミヒロ
【料理写真】レストラン リューズ


『レストラン リューズ』へのアクセス〉


東京メトロ日比谷線「六本木駅」6番出口より徒歩3分
都営大江戸線「六本木駅」6番出口より徒歩3分

RestaurantRyuzu_725内観店舗デザインの素材にもこだわった、クラシックでモダンな店内。落ち着いた空間で料理を楽しむことができる。

RestaurantRyuzu_729外観六本木通りから一本入った場所にあり、写真左の階段を下りた地下1階に店を構える。
Restaurant Data
店名: レストラン リューズ
住所: 東京都港区六本木4-2-35アーバンスタイル六本木 B1F
営業時間: Lunch:12:00~15:00(L.O.13:30)
Dinner:18:00~23:30(L.O.21:00)
定休日: 月曜日 不定休

『レストラン リューズ』は予約困難店ですが、ポケットコンシェルジュに会員登録していただくと、様々なレストランの最新情報を受け取ることができるようになります。